「東京に、家を持とう」
このキャッチフレーズ通り、オープンハウスは都心でも手の届く価格帯で住宅を販売し注目を集めてきました。主として、戸建ての土地の仕入れ、設計から販売までを手掛ける不動産会社です。
5期連続(2017年8月期時点)で増収増益と成長目覚ましい企業ですが、実は稼いだキャッシュがマイナスの年が散見されるという特徴も持っています。
そんなオープンハウスの業績の謎を解き明かしていきましょう!
【オープンハウスの実態】増益でも営業キャッシュフローはマイナス!?
オープンハウスは今や売上高3000億円を超える企業にまで成長しました。
3年前と比較すると、売上高や営業利益は約3倍に増えています!都心のマンション価格が吊り上げられていることも、オープンハウスの商品をより魅力的に見せているようです。
オープンハウスの業績推移(単位:億円)
2014年9月期 | 2017年9月期 | |
---|---|---|
売上高 | 1,121 | 3,046 |
営業利益 | 137 | 376 |
当期純利益 | 77 | 247 |
総資産額 | 1,005 | 2,567 |
営業活動による キャッシュ・フロー | △113 | △7 |
一方で、稼いだキャッシュの推移を見てみると、これらの数値とは異なる動きをしていることが分かります。
キャッシュ・フロー計算書の営業活動によるキャッシュフロー(※)を見てみると、2017年8月期を含め、直近5年間でマイナスの数値を示す年が3回あります。
(※)営業活動によるキャッシュフローとは…
商売活動によって稼いだキャッシュのことです。商売活動において支出を上回る収入を得られているのであれば、プラスの値となります。詳しくはこちら(↓)
営業活動によるキャッシュフローがマイナスになっている状態は、商売活動において支出が収入を上回っていることを表します。つまり、オープンハウスは、商売を行うことでかえって手持ちのキャッシュを減らしてしまっているのです。
成長している企業は、営業活動によるキャッシュフローも増えていく傾向にあります。増収増益を更新しているオープンハウスのキャッシュフローが、これとは異なる動きを見せているのはなぜでしょうか?
また、なぜ本業の収益性を表す営業利益は黒字なのに、営業活動によるキャッシュフローはマイナスの値になっているのでしょうか?
その理由を探っていきましょう😊
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【ヒントは膨らむ在庫の中に】営業キャッシュフローがマイナスになる理由
オープンハウスの棚卸資産(在庫)の推移を見ていくと、みるみるうちに残高が増えていることが分かります。
2017年9月期の棚卸資産合計(販売用不動産+仕掛販売用不動産)は1,448億円、これは3年前の2.3倍ほどです。
在庫が積み上がるというとマイナスなイメージが付きがちですが、規模を拡大している企業の在庫は増えていく傾向にあります。商品への需要がどんどん高まるので、さらに増加する翌期の需要を見込み、それに見合った在庫を用意しておく必要があるのです。
オープンハウスも、商品への将来の需要見込みに合わせて、土地の仕入れ、開発等を行っています。そこでかかる支出が現在の収入を上回っているため、営業活動によるキャッシュフローがマイナス値になるのです。
オープンハウスのような不動産販売業は、その事業の特性上、仕入れから販売まで長い期間(数か月~年単位)を要します。そのため、需要が急増している場面では、現在の収入額と将来の需要に合わせた支出額が乖離しやすいのです。
これは、いわば先行投資を毎年続けている状態ですね。
本業の採算がとれていないわけでも、顧客から販売代金を回収できていないわけでもないのです😊
オープンハウスのキャッシュ・フロー計算書を見てみると…
営業活動によるキャッシュフローでは、「たな卸資産の増減額」の項目が一際大きなマイナス値を表示しています。これが、営業活動によるキャッシュフローがマイナスになる最も大きな要因です。
マイナスの「たな卸資産の増減額」は、前年からたな卸資産が大きく増えていること、つまり、まだ利益に結び付いていないキャッシュアウトが大きくなっていることを表しています。
2017年9月期のオープンハウスは、特にマンションの在庫を増やしていますね。現在は戸建て住宅が主力商品ですが、今後マンション事業を拡大しようとしているのです。
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【影響は財務基盤にも】自己資本比率が伸びないワケ
毎期利益を増やし、着々と自己資本を蓄えてるオープンハウスですが、実は自己資本比率(※)にそのような成長は見られません。
それどころか、3年前と比較すると下落しています。(2014年9月末:36.8% → 2017年9月末:32.3%)
(※)自己資本比率とは…
自己資本比率(%) = 自己資本 ÷ (純資産 + 負債)× 100
企業が事業で使う資金のうち、返済する必要のない資金(自己資本)の割合を表します。この数値が高いほど、安定的に事業を続けやすく財務基盤が健全であると考えられます。詳しくはこちら(↓)
オープンハウスのような不動産業は、仕入れから販売まで時間が空くため、事業を回し続けていくには豊富なキャッシュが必要です。キャッシュが尽きてしまうリスクを防ぐために、オープンハウスは仕入れから販売までのスピードを非常に重視しているのです。
それでも、自力で稼いだ資金だけでは十分でないのも事実です。ましてや、土地の仕入れには多額の資金を要します。
そのため、オープンハウスは借金によって足りない資金を補っているのです。3年前と比較すると、2017年9月期の借金(借入金+社債)は2.8倍にふくらみ、在庫以上の増え幅を見せています。
自己資本の増え方に見合った自己資本比率の成長が見られないのは、このように負債も膨らんでいるためです。自己資本比率の計算式で言う、分子も分母も増えている状態なんですね。
現在の収入以上に先行投資を続けている以上、この傾向は変わらないでしょう。
まだ自己資本比率が高いと言える水準になく、常に未来の急激な成長に向けた投資(つまり、現在の収入を上回る支出)を続けている状態なので、資金ショートしないためには将来の需要予測が非常に重要なカギとなってきます。
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まとめ
1.増収増益を更新しているオープンハウスも、営業活動によるキャッシュフローがマイナスになる年が散見されるなど、利益とキャッシュの成長が必ずしも連動していない。
2.1.の理由は、オープンハウスはより成長した将来の需要見込みに合わせて商品の仕入れ・開発等を行っているために、これらの支出が現在の収入を上回っていることである。いわば、先行投資を毎年続けている状態と言える。
3.毎期利益を出し自己資本を増やしている一方で、自己資本比率が伸び悩んでいるのは、先行投資に不足する資金を借金で補っているからである。