前回は、棚卸資産回転率(在庫回転率)の基本のキを学びました😊
今回は企業の事例を見ながら、棚卸資産回転率への理解をさらに深めちゃいましょう✨
取り上げるのは、大塚家具の事例です!
業績下降中…なのに棚卸資産回転率が改善したワケ
売上苦戦の中、急上昇した指標とは?
大塚家具と言えば…社長交代騒動(2014~2015年)、そしてその後の売上低迷を思い浮かべる方も多いかもしれません。
実際その辺りからは、目に見えて売上が減っていき、やがて大きな赤字を計上するようになってしまいました💦(業績の縮小自体は、もっとそれ以前から始まっていましたが)
ところが、経営指標を見ていると改善しているものもあります!
それが棚卸資産回転率なのです✨
🔸大塚家具の棚卸資産回転率の推移🔸
2014年度 | 2015年度 | 2016年度 | 2017年度 | 2018年度 | |
---|---|---|---|---|---|
売上高 | 555億円 | 580億円 | 463億円 | 410億円 | 373億円 |
棚卸資産回転率(回) | 1.7 | 1.9 | 1.5 | 1.5 | 1.9 |
2016~2017年度にかけて下がっていた棚卸資産回転率が、2018年度に再び上昇しています!
(※)棚卸資産回転率(= 売上原価 ÷ 棚卸資産残高)の算出に際して:
使用した売上原価の数値は「商品売上原価」の年度計上額、棚卸資産残高の数値は「商品」の期首残高と期末残高の平均値です✍
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どうして棚卸資産回転率が上昇したの?
業績への逆風が吹く2018年、大塚家具は ”あること” を仕掛けました!
この “あること” が一時的に需要を押し上げたために、売上の低迷で溜まっていた在庫がはけた(=売れた)のです✨
棚卸資産回転率は、「持っている在庫が何回はけたのか?(=売れたのか?)」を表します。
2018年は需要が回復し商品の売れ行きが良くなったことで、棚卸資産回転率が上昇したんですね。
大塚家具の棚卸資産回転率を改善させた ”あること” ……それは在庫一掃セールです!
10月、11月の期間限定で、最大80%という大幅な値引き販売を実施しました😲
それまで前年割れが続いていた売上高も、この時期だけは前年を上回る販売実績を生み出すことに成功したのです✨
一方、売上高&利益が減少した理由とは?
在庫一掃セールを仕掛けたことで、一時的とはいえ大塚家具は需要を回復させることに成功しました。
にもかかわらず…2018年度の売上高は前年から10%近く縮小、粗利にあたる売上総利益にいたっては20%強も減ってしまいました😢
その大きな理由の1つは、在庫一掃セール期間以外はやはり前年割れの売上高が続いていたことです。
大塚家具の収益性が根本的に改善したわけではないのですね💦
もう1つの理由は、売価からかなり大きな割合を値引いたセールであったこと。
1つ1つの販売価格が小さく抑えられてしまったために、売れた商品点数と比べると売上高が伸び切らなかったんですね。
これは、商品1つ当たりの利幅が小さくなっていたことをも意味します。
大塚家具の粗利率(「売上高からいかに効率よく粗利を獲得できているか?」を測る指標)を見てみると…
🔸 2017年度 … 51%
↓ ↓ ↓
🔸 2018年度 … 44%
と、セールを実施した年は7%もダウンしてしまっています😨
これでは、頑張って売上高を稼いでもなかなか利益を積み上げることができません💦
結局2018年度は、営業利益(本業の活動から得られる利益)も経常利益(平常時の活動によって生まれた利益)も、前年よりさらに赤字幅が膨らんでしまいました…。
在庫には資金が眠る!?採算が悪くてもセールに踏み切ったワケ
棚卸資産回転率の低下が示す、もう1つの意味とは?
とはいえ、ここまで大幅な値引きをしてしまえば、採算が悪化するであろうことは大塚家具にも分かっていたはずです😲
業績が下降をたどる中、なぜ最大80%引きという太っ腹なセールを実施したのでしょうか?
商品の売れ残りというイメージがある在庫ですが、実は以下のような見方ができます😊
在庫とは、
🔸 お金が形を変えたもの
であると同時に…
🔸これから販売されることでさらなるお金の増殖に貢献するもの
企業が仕入れや製造を通じてわざわざお金を在庫(商品)に変えるのは、投じた以上のお金を手に入れるためなんですね💰✨
…ということは、棚卸資産回転率が低下し、在庫が企業内部で溜まりやすくなっている状況は、「在庫に変えたお金が、さらなるお金の増殖に貢献しにくい状況」とも言えます。
一度在庫に変えたお金は、その在庫が販売され販売代金として企業に戻ってくるまでは、他の用途に使うことができません💦
そのため、棚卸資産回転率が低くなっている状況は、その企業の「お金の使い方」が以前よりも「非効率になってきている」ことを暗示しているのかもしれないのです😲
大塚家具が赤字覚悟のセールに踏み切った理由とは?
大塚家具は、売上高の落ち込みに合わせて棚卸資産回転率も低下していきました。
2014年度 | 2015年度 | 2016年度 | 2017年度 | 2018年度 | |
---|---|---|---|---|---|
売上高 | 555億円 | 580億円 | 463億円 | 410億円 | 373億円 |
棚卸資産回転率(回) | 1.7 | 1.9 | 1.5 | 1.5 | 1.9 |
2016~2017年度は1.5回転ほどにまで落ち込んでいます。
これは、在庫がスムーズに販売に流れなくなっているために、せっかく仕入に使ったお金がさらなるお金の増殖に貢献しにくくなっている状況…。
この頃の大塚家具は、売上高の落ち込みからキャッシュが足りなくなりはじめ、保有している投資有価証券や固定資産を売却することからも資金を得ていました。
そのような努力があったにも関わらず、大塚家具の持つキャッシュはみるみるうちに目減りしてしまったのです😢(たとえば、2017年度末の「現金及び預金」は2015年度末の6分の1にまで減っています)
この時の様子は、こちらの記事でさらに具体的に解説しています(↓)
この状況下でさらにキャッシュを得るためには、活躍の場を失い企業内部で眠っている資金を呼び覚まさなければならない!
…ということで、販売されずに企業内で滞っている在庫を、大幅な値引きをしてでもお金に変える作戦(=在庫一掃セール)をとったのだと思われます💰
大きく値引きして販売すると、もしかしたら投じたお金ほどの金額も得られないかもしれません。
それでも、何にも役立てずに眠らせておくよりは、元本割れしてでも別の用途に使えるお金に変えた方が良いと判断したのかもしれませんね。
2018年度は、この在庫一掃セールの他にも、資本提携先を探したり、借金に踏み出したりなど資金確保のための手立てをとっています。
苦慮の末に得た貴重な資金をどう有効に生かすか…大塚家具の今後はまだまだ目が離せません🌟
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まとめ
1.大塚家具の売上高が低迷し在庫の動きが悪くなっていた時期(2016~2017年度)は、棚卸資産回転率も低下していた。一方、在庫一掃セールを仕掛けた2018年度は、一時的に需要が押し上げられたために、”在庫のはけ” が良くなり棚卸資産回転率も上昇した。
2.2018年度は棚卸資産回転率が改善した一方で、大幅な値引きが響いたために、売上高・利益(売上総利益・営業利益・経常利益)ともに前年度よりも悪化してしまった。
3.採算悪化覚悟で在庫一掃セールに踏み切ったのは、仕入れによって在庫に変わったお金を、販売を通じて再びお金に戻し別の用途に活用しようとしたためであると考えられる。