キャッシュ・フロー計算書には大きく3つのパートがあります。
非資金損益項目は、そのうちの1つ「営業活動によるキャッシュ・フロー」に登場する項目です。
今回は、そんな非資金損益項目の正体、そしてシダックスに見る実例を解説していきます!
キャッシュ・フロー計算書の基本的な読み方はこちら(↓)で解説しています。
非資金損益項目とは?具体例もチェック!
非資金損益項目を一言で表すと…
非資金損益項目とは、キャッシュの動きが無いのに費用や収益として計上される項目のことです。
非資金損益項目の例
・減価償却費
・減損損失
・のれん償却額
・持分法による投資損益
・貸倒引当金の増加額
非資金損益項目の代表例である減価償却費や減損損失は、費用(損失)として計上されますが、同じ年度にキャッシュが出ていくわけではありません。
減価償却費や減損損失に対応するキャッシュは、それらの元となる固定資産を購入した時に支払われているからです。
費用や収益として計上されるということは、その年の利益の計算に関わっていることを意味します。
そのため、非資金損益項目はキャッシュフローと利益の間に差を生み出す要因になるんですね。
間接法を採用すると登場する
キャッシュ・フロー計算書の3つのパートのうち、商売活動のキャッシュフローを表す「営業活動によるキャッシュ・フロー」には、直接法と間接法という2種類の表示方法があります。
そのうちの間接法を採用した場合に、必ずと言っていいほど登場するのが非資金損益項目です。
多くの企業は間接法でキャッシュ・フロー計算書を作っていますね😊
「営業活動によるキャッシュ・フロー」のどこに登場するの?
間接法では、税引前利益に対して、項目ごとに利益とキャッシュの動きの差額を調整していくことで、営業活動から生み出されるキャッシュフローを求めます。(その他、本業以外の損益項目を差し引く等の調整も行います)
なぜなら、1年間の利益は、収益として計上されているのにまだ入金のないもの、費用として計上されているのに既に支出済みのものなどが織り混ざって計算されているためです。
そのような調整項目の1つが、非資金損益項目なんですね。
間接法の表示形式は、一番上に「税引前当期純利益」が置かれ、その次に税引前当期純利益と営業活動によるキャッシュ・フローの差を調整する項目、一番下にその調整結果としての「営業活動によるキャッシュ・フロー」が記載されます。
営業活動によるキャッシュ・フローの表示形式
① 税引前当期純利益
↓
② 税引前当期純利益と営業活動によるキャッシュ・フローの差を調整する項目(複数)
↓
③ 営業活動によるキャッシュ・フロー
非資金損益項目は、② 税引前当期純利益と営業活動によるキャッシュ・フローの差を調整する項目のトップ部分に記載されます。
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シダックス、赤字なのにキャッシュフローがプラスになる理由とは?
ここで、シダックスの実例を見ながら非資金損益項目の理解を深めていきましょう!
2016年3月期のシダックスは、営業赤字(営業損失)に陥りながらも、営業活動によるキャッシュ・フローはプラスの数値を保っています。
その理由を、非資金損益項目に着目して解き明かしていきましょう。
シダックスのキャッシュ・フロー計算書をのぞいてみよう
実際に、シダックスの2016年3月期のキャッシュ・フロー計算書(営業活動によるキャッシュ・フローのみ)を少しのぞいてみましょう。
シダックスの連結キャッシュ・フロー計算書(2016年3月期 / 一部要約)
2016年3月期 | |
---|---|
営業活動によるキャッシュ・フロー | |
税金等調整前当期純損失(△) | △3,341 |
減価償却費 | 5,148 |
減損損失 | 2,475 |
のれん償却額及び負ののれん償却額 | 75 |
賞与引当金の増減額(△は減少) | △897 |
: | |
持分法による投資損益(△は益) | 212 |
: | |
売上債権の増減額(△は増加) | △51 |
: | |
営業活動によるキャッシュ・フロー | 469 |
(※単位:百万円。シダックス株式会社、2016年3月期有価証券報告書より)
ピンク色の文字の項目が非資金損益項目です。(「賞与引当金の増減額」以下、引当金関係の非資金損益項目が続きますが、ここでは省略しています。)
一番上の行に「税金等調整前当期純損失 △3,341」とあるように、税金を差し引く前の段階で利益が-33億円の赤字になっていることが分かります。本業の損益を表す営業損益も△8億円弱の赤字でした。
その一方で、一番下の行を見ると「営業活動によるキャッシュ・フロー」が+4億円を超えていますね。
利益とキャッシュ・フローの差を生んだ原因とは?
営業利益(損失) → マイナス
営業活動によるキャッシュ・フロー → プラス
このようなギャップが生じた大きな原因は、非資金損益項目にあります。
シダックスのキャッシュ・フロー計算書を見てみると、特に減価償却費は50億円以上ものギャップを生み出す原因となったことが分かりますね。
キャッシュアウトの無い費用であるため、営業活動によるキャッシュ・フローを求める上で、税引前当期純利益に足し戻しているのです。
シダックスの収益の柱であったカラオケ事業では、毎年、店舗設備の改修やカラオケ機器の新機種導入といった設備投資が行われています。
つまり、減価償却費の元となる固定資産が毎年追加されているわけです。
基本的に、固定資産は購入されたときにキャッシュが支払われますが、減価償却費として費用が発生するのは固定資産を使用してから複数年(長いと10年以上)にわたります。
(※固定資産を購入した時のキャッシュアウトは「投資活動によるキャッシュ・フロー」のパートに記載されます。)
そのため、費用計上とキャッシュが出るタイミングにずれが生じるんですね。
減価償却費のもっと詳しい解説はこちら(↓)
シダックスのカラオケ事業は、営業を続けるために一定の投資が必要である一方で、客数が減り採算が悪化していました。
縮小した利益に、現在のみならず過去の投資にも起因する減価償却費が重くのしかかるようになっていたのです。
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まとめ
1.非資金損益項目とは、キャッシュの動きが無いのに収益や費用として計上される項目のことである。減価償却費、減損損失、貸倒引当金の増加額などがある。
2.非資金損益項目は、キャッシュ・フロー計算書の「営業活動によるキャッシュ・フロー」で、間接法を採用している場合に登場する。税引前当期純利益から営業活動によるキャッシュ・フローを導くための調整に使われる。