なぜ?円安が輸出企業に有利に影響する理由④トヨタに学ぶ商品魅力度UPのワケ

 

このシリーズでは、「なぜ円安になると、輸出企業の利益が増えるのか?」について全4回で解説しています🌎✨

今回は、3つある理由のうちの最後「円安になると商品魅力度がUPする」全体のまとめについてお話していきます!

 

 

早わかり!円安が商品を魅力的に見せちゃう法則

2014年から2015年にかけ、一気に為替レートが円安に駆け上がった頃、訪日客もグングン数を伸ばしました。

流行語大賞にノミネートされるほど、”インバウンド”消費が盛り上がったことは記憶に新しいですね✈

 

これこそ、今回ご紹介する3つ目の理由「円安になると商品の魅力度をUPする」を端的に表した事象です!

分かりやすい例を挙げてみましょう😊

 

たとえば、アメリカから来た観光客が1200円のお箸をお土産に買おうと考えたとします。

「果たして1200円が高いのか安いのか?」を判断するために、1200円を自国の通貨であるドルに直して考えますよね。

 

 1ドル=100円なら12ドル

   ↓ 円安が進むと…

 1ドル=120円なら10ドル

 

日本円では同じ1200円の商品であっても、ドルに置き直して考えると円安になるほど安くなるのです。お客様にとって、商品の魅力度も上がると言えます。

 

スポンサーリンク

 

【トヨタ自動車の例】車の魅力度が高まりやすい理由とは?

車は高い…だからこそ円安影響を受けやすい

トヨタ自動車が取り扱っているのは、お箸よりももっと高い数百万円単位の商品です。

そのため、為替レートが変動している時世においては、外国通貨に置き直した価格の振れ幅はお箸と比べ物にならないほど大きくなります

「自動車を購入するかどうか」というお客様の意思決定にも大きく関わってくるでしょう。

 

円安の環境下であれば、日本から輸入される商品は(現地通貨ベースで)より安く見えますし、場合によっては販売企業側が値下げする余裕も出てきます

そうすると、顧客にとっては商品がより魅力的に見えて、売れ行きが良くなるという循環が起きますね😊

 

ちなみに、円安によって商品魅力度が高まるのは、海外で販売される車のうち日本から輸出されたものです。

トヨタ自動車は現地生産を進めているとはいえ、日本から輸出する自動車もまだまだ多いのが現状です。

実際に、1年間に海外で生産された自動車は480万台程であったのに対し、海外で販売されたのはそれを大きく上回る670万台でした(2016年度実績)。

 

決算書で影響を受ける部分とは?

価格面での商品の魅力度が上がると、決算書のどの部分に影響があるのでしょうか?

トヨタ自動車の損益計算書を例に見てみましょう!こちら(↓)の★マークの部分がその影響をうける箇所です。

 

トヨタ自動車 損益計算書(2017年4月~6月/一部要約)

 2017年4月~6月影響を受ける場所
 売上高70,476
 売上原価及び販管費64,733
 営業利益5,742
 その他の収益・費用1,050
       :
     為替差益227
       :
 税引前利益6,793
       :
※トヨタ自動車株式会社 2017年6月期 四半期報告書より

 

 

やはり、売れ行きが良くなることによる売上アップが期待できます。

そうすると、売上高から売上原価などを差し引いた「営業利益」、そこからその他の収益・費用を差し引いた「純利益」も押し上げられることになります。

(※トヨタ自動車は米国会計基準を採用していますが、日本基準の場合は「経常利益」も押し上げられますね。)

 

ちなみに、ここで押し上げられた利益額を算定するのはおそらく不可能だと思います。一体何ドルならお客様が買ったのかを1人1人推定するのは難しいですね😓

 

スポンサーリンク

 

【まとめ①】トヨタ社長の言う「等身大の実力」とは?

2016年3月期までの3年間は売上高、利益ともに右肩上がりのトレンドだったのに対し、2017年3月期の業績は突然カクンと落ち込んだ格好になってしまいました。営業利益はその前の年と比べて3割も減っています。

この結果を、トヨタ自動車の豊田社長は「等身大の実力」が表れたものであると評価しています。その言葉が意味するところはなんでしょうか?

 

止んでしまった円安の追い風

1ドル=70円台にまで下がった円高時代の後、2013年ごろから為替レートは徐々に円安に傾き始めました。円安の追い風が吹いていた2016年3月期までは、トヨタ自動車の業績はグングン伸びていたのです。

しかし、この追い風も2016年3月期まで。

その後は円高方向にレートが動き始め、トヨタ自動車の業績にもその影響が表れてきました。

 

2017年3月期のレートそのものは、まだ円高とは言えないレベルのものです。

しかし、業績は前年と比較しながら発表されるため、どうしても円安トレンドにあった前年と比べると業績が悪化して見えてしまいます

このような傾向は、トヨタ自動車以外の輸出企業にも見られますね。

 

円安が利益を増やすことの意味

ここまでにご紹介した1つ目の理由「円表示にすると売上高・仕入高が増える!」や2つ目の理由「円表示にすると資産・負債が増える!」から分かるように、

「円安が利益を増やす」という現象は、

 🔹 決算書を作るために外貨建ての取引や資産を円貨に直す

 🔹 外貨建ての販売代金を円貨で決済する

などの作用によって起こるものです。

 

つまり、企業の営業力が強化されたり、画期的な商品が発売されたり…などといった企業側の努力によって利益が増えるわけではないのです。

 

為替レートの力で利益の逆転現象が起きた例

このような理由から、為替レートが変動している年には利益の逆転現象が起きてしまうことがあります。

たとえば、トヨタ自動車の2017年4月~6月の損益計算書をその前年の同じ時期と比べてみると

 

トヨタ自動車 損益計算書(2017年4月~6月、2016年4月~6月/一部要約)  単位:億円

 2016年4月~6月2017年4月~6月
 売上高65,89170,476
 売上原価及び販管費59,46864,733
 営業利益6,4225,742
 その他の収益・費用3481,050
       :
     為替差益△293227
       :
 税引前利益6,7706,793
       :
※トヨタ自動車株式会社 2017年6月期 四半期報告書より

 

 

「営業利益」が前年から減っています。

にも関わらず、その他の収益・費用の内訳の「為替差益」が前年よりも増えたために、「税金等調整前四半期純利益」(税金を除く前の利益)は逆転前年から増益となっていますね。

 

「為替差益」は、2つ目の理由「円表示にすると資産・負債が増える!」により生ずるものです。

2016年4月~6月は円高に進んだことで「為替差損」に、一方2017年4月~6月はやや円安に進んだことで「為替差益」となったために、利益の逆転現象が生まれたのです。

 

これらは、為替レートの動きによって生まれた利益や損失です。

つまり、企業側の努力や工夫によって生まれた利益の逆転現象ではないのです。

 

為替レートの力で業績の見栄えが良くなってしまう

このように、企業努力の及ばない為替レートの力によって、真の実力以上に業績が良く見えることがあり得るのです。

 

「2017年3月期は円安の追い風が止み、背伸びをしない状態のトヨタの実力値が見えた」

という意味で、豊田社長は「等身大の実力」という言葉を使ったのですね。

このように、為替レートの動きによって業績が良くも悪くも見えるために、トヨタ自動車は為替影響を除いた利益を重視した経営を行っています。

 

スポンサーリンク

 

【まとめ②】なぜ円安が輸出企業に有利なのか?

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

長くなってしまいましたが、「なぜ、円安が輸出企業の業績に有利なのか」について、3つの角度から見てきました😊

 

これまで見てきたように、円安が生み出す利益の多くは「外貨を円貨に置き換えることによって生まれる利益」です。

つまり、真の実力の伸びとは別の次元で生まれる利益なんですね。

 

トヨタ自動車の有価証券報告書にもこのような記載があります。

たとえ日本円に対する通貨の変動が大きく、前連結会計年度との比較において、また地域ごとの比較においてかなりの影響を及ぼすとしても、換算リスクは報告上の考慮事項に過ぎず、その基礎となる業績を左右するものではありません

引用 – トヨタ自動車株式会社 2017年3月期有価証券報告書 7 【財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

 

円安、円高の風の中に流れる業績ニュースに触れる時、この点を踏まえて聞けばまた違った企業の捉え方ができるかもしれませんね^^

 

トヨタの2017年上期の業績を読む~売上と最終損益が増えて、営業利益が減っているワケ

2017年11月9日

 

おすすめコンテンツ(広告含む)