どんな項目が特別利益・特別損失になるの?
特別利益・特別損失とは?
損益計算書には様々な利益や費用・損失が登場します。その中でも「臨時」「巨額」であるものは、特別利益・特別損失になるのです。
★ 臨時 →その企業にとって、毎年は発生しないような収益・費用
★ 巨額 →その企業の業務の中で、普通は発生しえない規模の金額のこと
どんな損益が「臨時」で、どの位の金額なら「巨額」なのかは、企業の事業内容や規模によって異なります。
そのため、特別損益を判定するための一律の基準はなく、それぞれの企業に合わせた判断をしていくことになります。
特別損益を生みやすい事象とは?
とはいっても、企業にとって「臨時」で「巨額」になりやすい損益は、やはり似ているものです。
特別利益・特別損失を生み出しやすいイベントとして、このようなものがあります。
● 収益の悪化(事業・人・資産のリストラ、減損処理)
● 投資戦略の転換(子会社を増やす減らすなど)
● 地震、火災、洪水などの災害
● 商品・サービスやセキュリティで問題が生ずる
自社の商品・サービスやセキュリティで問題が生ずると、リコール費用、損害賠償費用、情報漏えい対応費用などの対策費用が必要になります。
上記の他にも、和解金や補助金といった特別利益もよく見られますね。
実際にイメージをつかむために、特別損益の定番項目が並んでいる具体例を見ていきましょう😊
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マクドナルド~リストラと減損の例~
鶏肉の賞味期限切れ問題の発覚を発端に、業績悪化に拍車がかかったマクドナルド。
これを機に不採算店舗を一気に閉め、事業改革にのぞみました。こちらはその改革真っ最中2015年12月期の特別損益です。
★ 特別利益(0円)
● なし
★ 特別損失(92億円)
● (b)減損損失 35億円
● (a)サプライチェーン契約精算損失 19億円
● (a)店舗閉鎖損失引当金繰入額 16億円
● (a)店舗閉鎖損失 9億円
● (c)早期退職制度関連費用 5億円
● (c)固定資産除却損 5億円
● (c)固定資産売却損:0.8億円
特別損失には、当時の必死のリストラの様子が色濃く表れています。
店舗網縮小による損失とは?
まず、不採算店舗を閉鎖するために生ずる損失が(a)の特別損失です。
店舗閉鎖損失は、店舗を閉鎖したことにより既に生じた損失のことです。
また、店舗閉鎖について今後見込まれている損失が店舗閉鎖損失引当金繰入額です。同時に、貸借対照表の店舗閉鎖損失引当金も、同じ金額だけ増えていますね。
まだ生じていない損失であっても、すでにその原因が発生し、高確率で損失の発生が見込め、かつ損失額が算定できる場合は、このように引当金を表示します。
引当金の詳しい解説はこちら(↓)
また、店舗数が縮小したことで、一部の仕入先等との関係を精算しなくてはならなかったのだと思います。
マクドナルドから持ちかけた精算であるために、精算に際する負担金がサプライチェーン契約精算損失として生じています。
店舗の売上減少は減損損失に反映される
固定資産の価値とは、「その固定資産を使って営業することで、企業のキャッシュを増やすことができる」ことです。
マクドナルドであれば、店舗(建物)という固定資産があることで、お客さんに商品を届け、代金を受け取ることができますね。
しかし、店舗の売上が落ち、獲得できるキャッシュの減少が見込まれるのであれば、その分店舗(建物)の価値も減らさなくてはなりません。
その価値の減少を表したのが減損損失なのです。
この頃のマクドナルドは急激に売上が減少していました。そこで、今後キャッシュの獲得が少なくなるであろう店舗(建物)の金額を減らし、減損損失(b)を計上したのです。
減損損失のさらに詳しい解説はこちら(↓)
さらに固定費の削減を図る
減損処理によっても固定費の削減を図ることができますが、マクドナルドはさらに費用を減らすべく改革を進めます。
まず、人件費を減らすために早期希望退職を募りました。ここでかかる退職金や再就職支援費用が早期退職制度関連費用です。
また、使わなくなった建物や機械といった固定資産を処分したために、固定資産除却損、固定資産売却損が出ていますね。
使わない固定資産を処分したことにより、それらの固定資産から毎年生じていた減価償却費を減らすことができます。
この年に大きな損失を出すきっかけとなった一連の改革は、現在となって効果を発揮し、利益率は飛躍的に上昇しています。
キリンホールディングス~投資戦略の転換と資産リストラの例~
国内での飲料事業の再成長、そしてグローバルな事業展開を目指すキリンホールディングス。
これらを達成するためには投資資金が必要です。投資に備えて、キリンはコストの削減や借金の返済(いざという時の借金余力を残しておくため)を進めていきました。
その改革を行っていた2013年12月期の特別利益と特別損失を見てみましょう。
★ 特別利益(732億円)
● 投資有価証券売却益(469億円)
● 固定資産売却益(227億円)
● その他(35億円)
★ 特別損失(481億円)
● 減損損失 140億円
● 事業構造改革費用 96億円
● 在外子会社税制特別措置適用支払金 84億円
● 工場再編損失引当金繰入額 33億円
● 固定資産除却損 32億円
● 固定資産売却損:26億円
● その他:66億円
(※)20億円未満の項目は、「その他」に含めています。
グローバル戦略の見直しから得た利益
キリンは東南アジアで事業展開していくためのパートナーとして、シンガポールのフレイザー・アンド・ニーヴ社の株式を保有していました。
しかし、フレイザー・アンド・ニーヴ社の株主構成が変わったことで、キリンの目的に沿った協業が難しくなったと判断し、保有していた株式を売却したのです。
売却によって得た収入が株式の価格を大きく上回り、469億円という売却益が生じたんですね。
本社ビル売却で生まれた固定資産売却益
今後の戦略的投資に向け、キリンは経営の効率性を上げ、借入れ余力を保つために借金の返済を目指していました。
そこで実行したのが、保有している固定資産の売却です。これにより、固定資産をキャッシュに変えることができます。
この年に売却した固定資産は、キリンの本社ビルです。
本社ビルの土地・建物を含め、2015年3月期にキリンが得た固定資産の売却収入は474億円にものぼりました。(売却益は、この金額から固定資産の帳簿価額を差し引いた金額です。)
バラエティ豊かな特別損失
この年は特に特別利益が大きく生じていますが、特別損失にも様々な項目が現れていますね。
減損損失には、京都の工場を閉鎖したことや、景気減速等の市場変化を反映してオーストラリア子会社の資産の再評価をしたこと等による損失が盛り込まれています。
事業構造改革費用には子会社の工場再編費用、在外子会社税制特別措置適用支払金にはブラジルの子会社での訴訟に関連した支払いが計上されています。
特別利益、特別損失ともに、国際色を感じられる内容であり、また再成長に向けた改革の意図がうかがえる項目が並んでいます。この傾向は現在においても引き継がれています。
アスクル~被災した例~
2017年に物流拠点で火災が発生し、被害をこうむったアスクル。出荷作業に支障が生じただけでなく、物流施設や在庫もダメージを受けました。
この火災のあった2017年5月期のアスクルには、どんな特別損益が出たのでしょうか?
★ 売上高(3359億円)、営業利益(88億円)、当期純利益(10億円)
★ 特別利益(49億円)
● 受取保険金(49億円)
● その他(0.1億円)
★ 特別損失(116億円)
● 火災損失 112億円
● その他:3億円
(※)1億円未満の項目は、「その他」に含めています。
先ほどご紹介したキリンの例とは対照的に、シンプルに火災の影響だけを写し取ったかのような特別損益となっています。
火災のダメージが表れた特別損失
火災損失には、名前の通り火災によってアスクルが被った全体的な損害が含まれています。
● 在庫が焼失した損失 25億円
● 火災で損傷した物流施設を、今後解体・撤去する費用 12億円
● 物流施設を、今後再構築する費用 66億円
物流施設関連の費用は、今後発生するものですね。
先ほどのマクドナルドの店舗閉鎖損失引当金繰入額と同じで、
● これから生ずる費用で
(今後、物流施設を解体・再構築したときに生ずる)
● すでにその原因が発生し、高確率で費用の発生が見込め
(火災の損害を受けたことで物流施設の解体・再構築が決定)
● かつ費用の金額が算定できる
(物流施設の再構築費用であれば、物流施設の過去の購入金額をもとに算定)
このような場合は、引当金が計上されます。同時に、同じ金額だけ費用(この例では火災損失)も発生します。
この年の貸借対照表を見ると、流動負債と固定負債に火災損失引当金がそれぞれ7億円、71億円表示されています。
火災損失引当金の大半が固定負債に表示されていることから、物流施設の撤去や再構築にかかる費用の多くは2017年5月から1年を超えた先に発生することが分かります。
赤字の窮地を救った保険金
営業利益を上回る火災損失が出てしまい、赤字の可能性もあったアスクル。
しかし、その窮地を救ったのは火災保険と運送保険でした。
保険会社から49億円もの保険金が支払われ、特別利益に計上されたのです。
翌年に方針転換!物流施設を売却へ
当初は被災した物流施設を解体・再構築する予定でしたが、2018年5月期に入って方針転換したようです。
この物流施設を売却し、ここに新たに建てられた物流施設を賃借することにしました。
そのため、2018年6~11月の特別損益を見てみると、このような項目が表示されています。
● 物流施設を売却したことによる利益と損失(固定資産売却益・固定資産売却損)
● 火災損失引当金を無くしたことによる利益(火災損失引当金戻入額)
当初、見込んでいた物流施設の解体・再構築費用が方針転換により発生しないこととなったため、火災損失引当金がなくなったのです。この場合、火災損失引当金を計上したときとは反対に、今度は利益が生じます。
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まとめ
1.特別利益・特別損失に該当するかどうかは、企業の規模や事業内容に応じて判定される。よく見られるのは、リストラ、投資戦略の転換、災害、減損などによって生じた利益・損失である。
2.リストラ関連では、人のリストラ(早期退職金、再就職支援費用)、事業のリストラ(事業売却による損益)、資産リストラ(建物や土地の売却損益)などがある。
3.投資戦略の転換では、子会社や関連会社の増減、つまり株式の購入、売却に伴う損益などがある。
4.災害関連では、資産が受けた損害、それを再構築する費用(特別損失)、保険会社から受け取る保険金、政府からの補助金(特別利益)などがある。