「全品280円均一」看板をひっさげて、飲食業界で抜群の存在感を発揮した鳥貴族。
その鳥貴族の代名詞でもある「280」という数字が、2017年10月に変更されました。およそ6%増の「298」円、つまりは値上げです。
値上げの理由はいくつかあるようですが、今回は近年の鳥貴族の「決算書」から、その理由を客観的に分析してみます!
目次
1.鳥貴族の成長ぶりはいかに!?
値上げの理由を探っていく前に、鳥貴族の成長ぶりを観察してみましょう😊
躍進する売上高
こちらは、値上げ発表直前の2017年7月期とその3年前の売上高です。
2014年7月期 → 146億円
2017年7月期 → 293億円
3年の間に、売上高が2倍に飛び跳ねています。
この期間、新規出店も積極的に行っており、店舗数も363店から567店へと大きく伸びていますね。
利益には変化が…!?
このように売上高だけ見ると絶好調に見える鳥貴族ですが、実は利益ベースでは変化が起きていました。
2017年7月期に着目して見ると、
★ 売上高 → 前年の1.2倍に増えている
★ 営業利益 → 前年から1割近く減っている
となっているのです。そのワケについて、これから探ってみましょう!
2.人件費はどの位増えた?~売上高人件費率~
鳥貴族の利益のカギを握る人件費
鳥貴族の中でも多くの人件費がかかる場所、それは店舗ですね😊
料理を用意し、接客をする従業員のコスト(お給料)をどうコントロールするか?これが鳥貴族の利益を大きく左右します。
店舗が増えるにしたがって、当然人件費も増えていきますので、ここでは売上高人件費率(人件費率)を使ってみましょう。
☆ 売上高人件費率 = 人件費 ÷ 売上高 × 100
人件費率が小さくなるほど、少ない人件費でより大きな売上高を獲得できていると言えます。
人件費率は本当に上がっている?
鳥貴族の発表では、値上げの理由の1つに「人件費の上昇」を挙げています。
では、先ほどと同じように、2017年7月期とその3年前の年度で人件費率を比較してみましょう。
2014年7月期 → 32.3%
2017年7月期 → 33.5%
(※)店舗の人件費に着目するため、人件費の金額には販管費に含まれる「給与手当」「雑給」「賞与引当金繰入額」を使用しています。
3年の間に、1.3%上昇していますね。つまり、3年前と同じ金額の売上高を稼ぐにしても、より多くの人件費がかかるようになったことを意味します。
1.3%というとわずかな変化のようですが、実は利益には大打撃なんです!
たとえば、2017年7月期の営業利益は14億円(前年から1.3億円の減益)ですが、もし3年前から人件費率が上昇していなかったら、それより3億円以上多い18億円を稼ぐことができました。
つまり、前年から減益とはならなかったのです。
その後、人件費率を保っていた理由
3年前からの比較では人件費率に変化が見られますが、2015年7月期~2017年7月期の間ではほぼ一定の数値を保っています。
実は、鳥貴族の中でもコスト高への危機感はつのっており、社内で「280円均一を守ろうプロジェクト」が走っていました。
その一環として、店舗内に注文用のタッチパネルを設置するなどして営業人数の減少に取り組んでいたのです。
3.食材価格はどの位上がった?~粗利率~
鳥貴族の食材費の影響を測るには?
鳥貴族のコストの中でも大きな割合を占めるのが食材費です。
鳥貴族の売上原価の大半は、食材等の仕入れ価格が占めています。鶏肉や野菜の価格が上がれば、鳥貴族の業績への影響はかなりのものになるでしょう。
この影響をはかるために、粗利率を使ってみます。
粗利(売上総利益)は、売上高から売上原価を引いた利益のおおもとと言えます。粗利率は、「いかに効率的に売上原価を使って、利益を稼いでいるか」を測ることができます。
☆ 粗利率(売上総利益率)= 売上総利益 ÷ 売上高 × 100
鳥貴族の粗利率が変化した1年
鳥貴族の粗利率は、2017年7月期の1年間に大きな変化があったようです。
2016年7月期 → 68.7%
2017年7月期 → 67.9%
1年間で粗利率が0.8%下がっています。裏を返すと、売上高に対する売上原価の割合が増えているんですね。
この背景にあるのが、2017年7月期の天候不順です。特に夏期の日照時間が少なく、野菜の仕入れ価格が高騰する原因となりました。
売上高が増えるとスケールメリットを得られるが…
鳥貴族のように企業の規模が拡大していくと、同じ商品1つを販売するにしてもそこにかかるコストは小さくなっていきます(スケールメリット)。
たとえば、生産量・販売量が増えても、本社や工場の減価償却費(固定費)は変わりませんよね。生産量が増えるほど、商品1個あたりの固定費は小さくなります。
さらに、大量に仕入れるほど割引を受けられるようになり、1個当たりの商品の材料費も安くなっていきます。
今までの鳥貴族は、会社の成長とともに、このスケールメリットを生かして原価を減らしてきたのです。
しかし、2017年7月期の野菜価格高騰は、この効果を打ち消してしまうほどマイナスの影響を与えたんですね。
4.売上高が増えたのに利益が減ったワケ~営業利益率~
利益を生み出す効率性をはかる
人件費の上昇、野菜の仕入れ価格の高騰…このようなコスト高のあおりを受けて、当然商売の収益力は落ちてゆきました。
ここで、「いかに効率的に商売の利益を生み出しているか?」を測る営業利益率を見てみましょう!同じ金額の売上高をあげている企業であっても、営業利益率の高い企業の方が、生まれる営業利益も大きくなります。
☆ 営業利益率 = 営業利益 ÷ 売上高 × 100
営業利益率の詳しい解説はこちら(↓)
鳥貴族の営業利益率はどう変わったか?
2014年7月期からの営業利益率の変遷を見てみると…
2014年7月期 → 4.7%
2016年7月期 → 6.5%
2017年7月期 → 5.0%
2016年7月期にかけて上昇していたものの、2017年7月期にカクンと下がってしまいました。
前年から営業利益率が下がる、つまり、たとえ前年と同じ金額だけ売上高をあげたとしても得られる営業利益は少なくなってしまう、ということです。
実際に、2017年7月期は前年から売上高が増えているにも関わらず、利益が減ってしまっています。それは、利益を生み出す効率性が悪くなったためなのです。
2016年7月期までも人件費は上昇していましたが、スケールメリットを生かしたコスト減少などによってその影響を吸収できていました。
しかし、2017年7月期に野菜の仕入れ価格高騰という要素が加わり、とうとう商売自体の収益性が悪化してしまったのです。
5.値上げの決定打とは?
上場来初の減益だった
ずっと利益を伸ばしてきた鳥貴族が、2017年7月期に上場来初めての減益に沈んだこと。これは間違いなく、値上げに踏み切る大きなきっかけになっていると思います。
この減益の決算発表を2週間後に控えた2017年8月に、価格改定のお知らせが発表されました。
今後も様々なコストの増加が見込まれる
じつは鳥貴族には、今後も各種コストの増加が見込まれているのです。
今後も人件費が上昇していくことが予想されている上に、2017年6月に施行された改正酒税法によってドリンクの仕入れ代も増えることが見込まれています。
また、鳥貴族は、1000店舗達成に向けて今後さらに出店ペースを加速させていく計画を持っています。工場も新しく建てますし、海外進出も念頭に置いています。
そうなると、ハイペースな投資計画に資金を間に合わせるために、借入れを行う必要がありますね。当然、利息の支払いが増えます。
実際、2017年7月期の1年間で10億円近く借金が膨らんでおり、利息の支払いに出ていくお金も増えているのです。
このように、2017年7月期の時点ですでにコストの増加分を吸収できなくなっていたにも関わらず、今後も各方面でコストがかさむことが目に見えている状況だったのです。
単純に企業を存続させるのではなく、野心的に規模拡大を狙う鳥貴族にとって、値上げは多少の客離れを招いたとしても必要な選択だったのかもしれません。
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6.まとめ
1.鳥貴族は売上高を増やし続けてきたにも関わらず、2017年7月期は上場来初の減益に沈んだ。
2.その大きな原因は、人件費の上昇や野菜仕入れ価格の高騰である。自助努力では吸収できないレベルにまで来ていた。
3.上記に加え、今後はドリンクの仕入れ代や支払利息の増加も見込まれている。海外にも視線を向け規模拡大を狙う鳥貴族にとって、収益増加に向けて抜本的な解決策を得ることは死活問題だった。