引当金を計上するためには、4つの要件を満たす必要があります。
4つのうち、どれか1つが欠けても引当金を計上することはできません。逆に、4つの要件が満たされた状況であれば、必ず引当金を計上しなくてはなりません。
今回は、引当金を理解する上で避けては通れないこの4要件について、JR東日本の事例を見ながら解説していきます😊
「そもそも引当金ってどんなもの?」を知りたい方は、こちら(↓)で解説しています。
引当金の4つの要件とは?
さっそく、引当金の4要件を見てみましょう!
1.将来、とある費用又は損失が発生すること
2.その費用又は損失が発生する原因がすでに生じていること
3.その費用又は損失が発生する可能性が高いこと
4.その費用又は損失の金額を合理的に見積もることができること
4番目の要件にある「合理的に見積もることができる」とは、1円もズレずにピタリと計算できることではありません。今集められる限りの情報を使って、可能な限り正確に計算をし、実際の費用又は損失と大きな差異が出ないように見積もることができればOKです。
「(現在集められる)情報量が不足しているために、実際の費用又は損失と結構差が出ちゃいそう…」という場合は、4番目の要件を満たしているとは言えないため、引当金を計上することはできません!
文字面だけ見ていても分かりづらいので、実際の引当金の例を見ながら解説していきますね。
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JR東日本の引当金に4要件を当てはめてみよう!
2017年12月末のJR東日本の決算書を見てみると、このような引当金が載っています。
東日本旅客鉄道株式会社 2017年12月31日時点の引当金
流動負債
賞与引当金 … 358億円
災害損失引当金 … 34億円
固定負債
新幹線鉄道大規模改修引当金 … 420億円
災害損失引当金 … 107億円
一部線区移管引当金 … 180億円
退職給付に係る負債 …6139億円
(2017年度第3四半期 四半期報告書より)
鉄道会社特有の引当金もいくつか見られますね。他の会社と比べて引当金の種類は多い方かもしれません。
今回は、災害損失引当金と新幹線鉄道大規模改修引当金を取り上げてみましょう!
災害損失引当金
地震、洪水、火事といった災害に見舞われた際、その災害が原因で費用や損失が生ずることがあります。このような費用や損失のうち、将来生ずる金額を見積もって災害損失引当金を計上するのです。
JR東日本の災害損失引当金が指し示す災害とは、2011年3月に発生した東日本大震災のことです。
この時の地震によって、駅舎やトンネル、電化柱など、電車の運行に必要不可欠な設備が損傷してしまいました。
先ほどの4つの要件にJR東日本の災害損失引当金を当てはめると、このようになります。
1.将来、とある費用又は損失が発生すること
→将来、設備を復旧する際に必要となる費用のことです。
2.その費用又は損失が発生する原因がすでに生じていること
→2011年3月の震災時に設備が破損したことが原因で、費用が発生します。
3.その費用又は損失が発生する可能性が高いこと
→震災直後の決算で、JR東日本は復旧を進めていくことを表明しています。JR東日本にとって復旧するかどうかは収益を左右する選択であること、日本のインフラを担う企業としての使命があることからも、復旧にたずさわる可能性はかなり高いと思われます。
4.その費用又は損失の金額を合理的に見積もることができること
→復旧費用の見積もりが可能な範囲内で、災害損失引当金を計上しています。有価証券報告書には、「現時点で合理的に見積ることが困難な復旧費用等については、災害損失引当金に含めておりません。」と記載されています。
ルーティン作業ではないだけに、実際の復旧作業にあたってみないとどの位の費用がかかるのか分からない箇所もあるのでしょう。そういった意味で、4番目の要件を満たせる範囲で災害損失引当金を計上していますね。
2011年の東日本大震災が起こった後は、多くの企業の決算書で災害損失引当金が見られました。
新幹線鉄道大規模改修引当金
新幹線鉄道大規模改修引当金とは、2031年から行う東北新幹線と上越新幹線の改修費用を積み立てたものです。
引当金の4つの要件に当てはめると、このように表すことができます。
1.将来、とある費用又は損失が発生すること
→2031年以降に、新幹線の改修費用が発生します。
2.その費用又は損失が発生する原因がすでに生じていること
3.その費用又は損失が発生する可能性が高いこと
→2016年3月に、国土交通大臣により新幹線鉄道大規模改修引当金積立計画の承認を受け、国からも大規模改修の必要性を認められました。さらに、改修を行わなければ新幹線の運行にも支障をきたすことから、JR東日本が大規模改修にあたる可能性はかなり高いと考えられます。
4.その費用又は損失の金額を合理的に見積もることができること
→これまでの改修の実績に基づいて見積もっているものと思われます。
引当金の積み立てに国の承認が関わっており、他の引当金と比べても少し特殊な性格を持った引当金です。ですが、引当金のキホンとなる要素は同じですね😊
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まとめ
引当金は将来の費用や損失を見積もって計上したものですが、現時点ですでにその原因があり、その発生可能性もかなり高いレベルで見通せており、さらに金額を見積もることができる位の情報も集まっていることが条件です。
このように、現在の状況にかなり強く影響された結果、計上されるものであることが分かります。
4つの要件に当てはめながら、企業の引当金を見てみるのも面白いかもしれませんね😊