東芝不正会計シリーズ第2弾です!今回は、東芝問題の中でも有名な工事進行基準を使った不正について見ていきます。
工事進行基準は、多くの大企業が採用している損益の計算方法です。
この問題から、工事進行基準の不正リスクや計算ポイントをわかりやすく解説していきます😊
東芝不正シリーズ第1弾(工事損失引当金の不正)についてはこちら(↓)
工事進行基準の計算方法をおさらい!
工事進行基準とはどんなもの?
工事進行基準とは、製品を作っていく進捗状況に合わせて売上高や費用を計上していく方法です。他の方法と異なり、製品が完成する前から売上高を計上できるのが特徴ですね。
工事進行基準により売上高や費用を計算するには、こちらの3つの要素が必要です。
1.工事契約から得られる収益合計
2.工事契約から発生する原価合計
3.決算日時点での工事の進捗度
1と2は、工事の全期間を通して生ずる売上高と費用のことです。そこに各年の3(決算日時点での工事の進捗度)を乗ずることで、その年までに生じた売上高と費用を求めます。
1も2も、工事が終わってみないと実際の金額は確定しません。3も、工事の進み具合を何らかの方法で推し測ることになります。
つまり、3つの要素はいずれも企業側が見積もった金額(予測値)なのです。
工事進行基準による計算方法
工事開始後、工事の進捗によって生ずる各年の売上高や費用は、先ほどの3つの要素を使って計算します。
各年の売上高
:工事契約から得られる収益合計(1)× 決算日時点での工事の進捗度(3)- この契約から生じた前年までの売上高
各年の費用
:工事契約から発生する原価合計(2)× 決算日時点での工事の進捗度(3)- この契約から生じた前年までの費用
3の「決算日時点での工事の進捗度」は、多くの企業では原価発生の進捗度を工事の進捗度と見なして計算します(原価比例法)。
決算日時点での工事の進捗度(3)
:決算日までに実際に発生した原価 ÷ 工事契約から発生する原価合計(2)
工事の全工程で発生する原価総額のうち、決算日までに発生した原価の割合を求めていますね。
ここでのポイントは、工事進行基準による売上高や費用は、企業側の予測値である3つの要素を使って計算するということです。
工事進行基準のもっと詳しい解説はこちら(↓)
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東芝不正に見る、工事進行基準の不正リスクとは?
このような工事進行基準のしくみを使って、東芝はどんな不正をしたのでしょうか?
東芝が行ったこと、それは売上高を前倒して計上するという不正でした。そのために、先ほどご紹介した3つの要素のうちの1つ「2.工事契約から発生する原価合計」の金額をいじってしまったんですね。
「工事契約から発生する原価合計」の金額が変わると何が起こるか?
「2.工事契約から発生する原価合計」の金額が変わると、何が起こるのでしょうか?
「3.決算日時点での工事の進捗度」の計算式をもう一度見てみましょう😊
決算日時点での工事の進捗度(3)
:決算日までに実際に発生した原価 ÷ 工事契約から発生する原価合計(2)
このように、工事の進捗度の計算には「2.工事契約から発生する原価合計」の金額が関わってきます。
たとえば…「決算日までに実際に発生した原価」が100万円となった工事契約のケースを考えてみましょう。
(1)「2.工事契約発生する原価合計」を1000万円と見積もったとき
決算日時点での工事の進捗度 =100万円 ÷1000万円 =10%
(2)「2.工事契約から発生する原価合計」を500万円と見積もったとき
決算日時点での工事の進捗度 =100万円 ÷500万円 =20%
このように、「決算日までに実際に発生した原価」の金額が同じでも、「2.工事契約から発生する原価合計」をより小さく見積もるほど、工事の進捗度が大きくなることが分かります。
工事の進捗度が大きくなれば、その年の売上高もより大きく見せることができるようになります。
なお、工事全期間を通した売上高の総額は決まっていますので、これはあくまで売上高の前倒し計上ということになります。売上高の架空計上(実際には無い売上高を計上する)ではないんですね。
企業側の誠意がポイント!
工事進行基準による売上高や費用は、企業側の予測値である3つの要素を計算式を当てはめることで導き出されます。
3つの要素のうち、「1.工事契約から得られる収益合計」は契約の金額、「3.決算日時点での工事の進捗度」の計算に用いる「決算日までに実際に発生した原価」はすでに発生した原価を集計した金額です。
この2つについては客観的に証明できるため、比較的操作されにくいのです。
一方、「2.工事契約から発生する原価合計」を求めるためには、工事の数多くの工程でかかる原価が集計されます。その中には、一般の人には理解しづらい専門的な作業や材料が組み込まれます。人件費1つとっても、各作業の労働時間を推測しなくては計算できません。
このように、かなり多くの要素が複雑に入り組み、「2.工事契約から発生する原価合計」が成り立っているのです。
そのため、同じ企業の従業員でも、その「2.工事契約から発生する原価合計」が適切に見積もられているかを判断するのはなかなか難しいことでしょう。
裏を返すと、「2.工事契約から発生する原価合計」の金額は操作しやすいということです。
会計士ですら見抜くのが難しい「2.工事契約から発生する原価合計」の不正を防ぎ、工事進行基準による売上高を正しく計上するには、企業側の誠意が大きな役割を果たすと言えます。
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東芝が不正に走った理由とは?
東芝内部で問題とされたのは、上層部による予算達成へのプレッシャーが過度に強かったということです。
予算に織り込まれた利益を達成するために、計上すべき損失を後ろ倒しに、そして収益を前倒しにしようとしてしまったんですね。
今回の東芝の不正では、工事損失引当金の計上(同時に損失が計上される)を先延ばしにするために「2.工事契約から発生する原価合計」を過小に見積もったことで、同時に売上高も前倒しになってしまった例が散見されます。
しかし、今回の不正は、あくまで損失を先延ばしに、収益は前倒しにしたものです。不正がばれなかったとしても、後々損失は計上されますし、収益も過小になってしまった金額を計上しなくてはならなくなります。
いずれは自分達の首をしめる不正に手を染めるほど、厳しくつらいプレッシャーに追い込まれていたのだと想像できますね…。
東芝不正に学ぶ、工事進行基準を計算するポイント!
ここまでお話してきたように、工事進行基準による計算では「2.工事契約から発生する原価合計」をいかにきちんと見積もるかがポイントになってきます。
たとえ不正をする意図が無くても、この金額をおおざっぱに見積もってしまうと、企業の実態からかけ離れた収益や費用が計上されることになってしまいます。
そのため、「2.工事契約から発生する原価合計」については各工程・作業ごとに細かく原価を積み上げていくのはもちろんのこと、適時に見直し、変更があればすぐに反映させなくてはなりません。また、漏れている原価がないかも要チェックです!
作業の見通しが立たないなどの理由により、このような細かい見積もりができないのであれば、「2.工事契約から発生する原価合計」の見積もり額が実際に発生する原価から大きく乖離するリスクがあります。
信頼性のある見積もりができないのであれば、工事進行基準は適用できません。この場合、工事の完成を待って売上高や費用を計上することに注意が必要です。
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まとめ
1.工事進行基準の計算に必要な3つの要素は、いずれも企業側が見積もった金額(予測値)である。それゆえ、不正に利用されやすい性質を持つ。
2.3つの要素のうち、特に「工事契約から発生する原価合計」は複雑な見積もりを要する。そのため、客観的に正しい金額かどうかを判断するのが難しく、企業の不正に利用されやすい。
3.3つの要素の1つ「工事契約から発生する原価合計」を実際より小さい金額にすることで、工事進捗度が実態よりも大きく計算される。東芝の不正問題では、この仕組みを使って売上高が前倒し計上された。
4.工事進行基準の計算では、3つの要素について信頼性のある見積もりをする必要がある。複雑な見積もりを要する「工事契約から発生する原価合計」は、変更があれは適時に反映し、原価の漏れがないようにすることがポイント。