まずは、ざっくりと受注損失引当金を理解しよう!
受注損失引当金は何を表すの?
建物や船の建設、機械の製造、システムの開発など…。
企業が受注するこのような工事契約の中には、赤字が見込まれるプロジェクトもあります。この時、今後発生する赤字(損失)の金額を負債に計上したものが受注損失引当金です。
たとえば、船を建設している企業が、契約を受注した時点でそのプロジェクトが赤字になることを認識したとします。つまり、船を造る費用が、お客さんからもらう対価を上回ると予想したのです。
その時は、作業を進めるのを待たずに、赤字を認識した時点(この場合は受注した時点)で、プロジェクトの赤字部分の金額を受注損失引当金として計上してしまうのです!
同時に、受注損失引当金と同じ金額だけ費用(売上原価に含めます)を計上します。
貸借対照表で受注損失引当金を見かけたら、赤字のプロジェクトを抱えているんだな~ということが分かりますね。
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受注損失引当金が利益にあたえるインパクトとは?
たとえ受注損失引当金を計上しなかったとしても、作業が完了する時までにはかかった費用はすべて計上され、赤字部分もしっかり損益計算書に反映されます。
つまり、プロジェクトに要した期間全体で見れば、受注損失引当金を計上してもしなくても、損益計算書に反映される赤字(損失)の金額は同じなんですね。
受注損失引当金を計上するということは、将来予想される損失(赤字)を前倒し計上していることと同じなのです。
工事損失引当金との違いとは?
システム開発の契約には受注損失引当金、建物の建設や機械の製造の契約には工事損失引当金という名称を使う傾向にありますが、基本的な意味、計算の仕方は両者とも同じです。
では、受注損失引当金は、具体的にどんなタイミングで計上し、そしてどのように計算するのでしょうか?次のパートから詳しく見ていきましょう😊
引当金のキホン的な意味については、こちら(↓)で解説しています!
どんな時に計上されるの?
引当金の4要件を満たしたら計上する!
引当金を計上するためには4つの要件を満たす必要があります。また、4つの要件すべてを満たしたときには、引当金を計上しなければならないことになっています。
これを受注損失引当金に当てはめてみると…
引当金を計上するための4要件
1.将来、とある費用又は損失が発生すること
→将来、赤字が発生すること
2.その費用又は損失が発生する原因がすでに生じていること
→赤字の契約を受注したこと
3.その費用又は損失が発生する可能性が高いこと
→赤字が発生する可能性が高いこと
4.その費用又は損失の金額を合理的に見積もることができること
→赤字の金額を合理的に見積もることができること
と、なります。
受注した時点で赤字となることが明らかなケースもあれば、作業開始後に材料費が高騰したり追加の作業が必要となったりして赤字見通しに転換するケースもあります。
いずれにしろ、引当金の4要件を満たしたとき、つまり赤字となる可能性が高くなり、かつ、赤字の金額を合理的に見積もることができるようになった時点で受注損失引当金は計上されます。
見通しが黒字から赤字に変わることも…
受注当初は黒字と考えられていても、作業を進めていくうちに追加の作業が必要となって費用がふくらみ、結果的に赤字となったケースは珍しくありません。
そのため、費用の見通しはこまめに見直し、その都度、受注損失引当金を計上する必要が無いか(赤字プロジェクトとなっていないか)確認する必要があるのです。でなければ、引当金の4要件を満たしたときに受注損失引当金の計上が漏れてしまうおそれがありますからね。
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受注損失引当金の金額の求め方
キホンの考え方(工事進行基準を適用しないケース)
受注損失引当金は、契約の赤字部分の金額、つまり契約の遂行によって発生する費用が、その契約から得られる収益を上回った金額を計上します。
契約から発生する費用合計(作業を完了させるためにかかる費用)
- 契約から得られる収益合計(お客さんから得られる対価)
この計算式によって求められる金額が、受注損失引当金の金額となるんですね。
完成前に一部の収益・費用が計上されているとき(工事進行基準)
工事契約の中には、作業の進捗に合わせて作業完了前から一部の収益や費用を計上しているケースがあります。
このような収益や費用の計上方法を工事進行基準と呼びます。
赤字契約に工事進行基準を用いると、作業が完了する前からその契約による赤字(損失)が少しずつ実現していきます。
受注損失引当金は、将来発生する費用や損失を表すものです。
そのため、工事進行基準を用いた契約の場合は、契約全体から生ずる赤字の合計額からすでに実現した赤字の金額を差し引かなくてはならないのです。
契約から発生する費用合計(作業を完了させるためにかかる費用)
- 契約から得られる収益合計(お客さんから得られる対価)
- すでに発生した損益額
言いかえると、今後作業を進めることで発生する赤字の金額を受注損失引当金の金額とするんですね。
受注損失引当金はいつ取り崩されるの?
キホンの考え方(工事進行基準を適用しないケース)
受注損失引当金を取り崩す(=減らす)のは、どのタイミングなのでしょうか?
これは他の引当金とも共通するのですが、引当金は4要件を満たさなくなった時に取り崩します。受注損失引当金の場合、通常は、将来の損失発生が見込まれなくなった時に取り崩されます。
将来の損失が見込まれなくなるのは、プロジェクトの作業が完了し、収益も費用もすべて計上された時点(実際に赤字が発生した時点)ですね😊
(※プロジェクトが黒字見通しに転換したときも、受注損失引当金は取り崩されます。これは次にご紹介する工事進行基準のケースも同じです。)
完成前に一部の収益・費用が計上されているとき(工事進行基準)
工事進行基準を用いている契約の場合は、作業の進捗度合いに応じて作業完了前から収益や費用が計上されていきます。そのため、作業が進むにつれて赤字が実現していくんですね。
つまり、作業完了に近づくほど、将来発生が見込まれる赤字が少なくなっていくわけです。
そのため、受注損失引当金も、赤字の実現に合わせて取り崩していかなくてはならないんですね。
こうして、受注損失引当金の金額が、常に今後行う作業から発生する赤字の金額となるようにするのです。
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まとめ
1.受注損失引当金とは、受注した工事契約が赤字となる可能性が高くなり、かつ、赤字の金額を合理的に見積もることができるようになった時点でその赤字金額を引き当てたものである。
2.受注損失引当金が負債に計上されると同時に、同じ金額を費用(売上原価)として計上する。つまり、作業の完了を待たずに、赤字を前倒しして計上することになる。
3.受注損失引当金は、作業が進行し赤字が実現した時に取り崩す。工事進行基準を適用している契約なら作業の進捗による赤字の実現と共に、工事進行基準を適用していない契約なら作業の完了によってすべての赤字が実現したときに取り崩す。