今回は「初心者の方向け!損益計算書を読んでみよう」というテーマでお送りします😊
損益計算書(PL)には5種類の利益が登場します。それぞれがどんな役割を果たしているのか、実際にベネッセの損益計算書を読みながら身につけていきましょう✨̻
損益計算書を読む前に。ここだけ頭に入れておこう!
実際にベネッセの損益計算書を読む前に、少しだけ損益計算書のポイントをお話しさせてください。
損益計算書の見方をさらっと解説
まず、損益計算書の見方についてです。「もう知ってるよ~」という方は飛ばしちゃってください😊
損益計算書は、企業の1年間の利益を計算している表です。
利益は、収益から費用を差し引くことで求められます。
この計算を、より細分化して表示したものが、損益計算書なんですね。
損益計算書の構造を簡単に表すとこうなります。
収益①(売上高) | ||
費用① | ||
★ | 売上総利益 | ← 売上高 - 費用① |
費用② | ||
★ | 営業利益 | ← 売上総利益 - 費用② |
収益② | ||
費用③ | ||
★ | 経常利益 | ← 営業利益 + 収益② - 費用③ |
収益③ | ||
費用④ | ||
★ | 税引前利益 | ← 経常利益 + 収益③ - 費用④ |
費用⑤(税金) | ||
★★ | 当期純利益 | ← 税引前利益 - 費用⑤ |
収益は3つのグループに、費用は5つのグループに分けて表示されます。
このように、表の1番上の売上高を起点として、そこから下に行くにしたがって順々に費用を引いたり、収益を足したりして利益を計算していきます。
最終目標地点は、一番下の行の当期純利益(★★)です。これが、最終的に企業の手元に残る利益ですね。
そして、当期純利益にたどり着くまでの4つの中間地点(★)で、その地点での利益を求めているのです。
「5つの利益」を簡単に理解しよう
利益を5つの地点に分けて表示しているのには意味があります。それぞれの利益が教えてくれることは、以下のように異なるのです。
1.売上総利益 … 売上高から商品のコストを差し引いた、おおもとの利益
2.営業利益 … 商売活動のみによって生まれた利益
3.経常利益 … 商売以外のことも含め、企業の平常時の活動から生まれた利益
4.税引前利益 … すべての収益から税金を除くすべての費用を差し引いた後の利益
5.当期純利益 … すべての収益からすべての費用を除いた、最後に残る利益
ここではざっと概要だけつかめば大丈夫です!具体的な意味は、後ほどベネッセの損益計算書を見ながら考えてみましょう。
初心者向け!決算書を読むポイントとは?
漠然と数字を眺めているだけでは、企業の姿は見えてきません。
決算書はいろんな分析手法がありますが、まずは、前年度の数字と比べながら読んでみるのがオススメです!
そうすると、「今年は売上が増えた」、「今年は人件費が減った」などの動きが見えてきますよ😊
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ベネッセの一口メモ~概要を知ろう~
会社の規模
ベネッセホールディングスの2017年3月期の売上高は4300億円です。教育業界の中ではダントツの売上高です。
他の業界で言えば、日清食品やオリエンタルランドと同じくらいの規模ですね。
現在の経営状況は?
ベネッセといえば、2014年に顧客情報の流出が発覚したことで世間を騒がせました。
これをきっかけに顧客離れが止まらず、売上高もどんどん減っていったのです。さらに、この事件のお詫び等にもコストがかかったため、2年連続で赤字に陥ってしまいました。
ベネッセの「5つの利益」を見てみよう
今回読んでみるのは、2年連続の赤字の後、ようやく黒字に復帰した2017年3月期の損益計算書です。
2017年3月期の損益計算書から、売上高と5つの利益を取り出してみるとこのようになります。前の年と比べてみると、基本的に売上高も利益も減っていますが、当期純利益だけは増えていますね。
2016年3月期 | 2017年3月期 | |
---|---|---|
売上高 | 4441億円 | 4300億円 |
売上総利益 | 1888億円 | 1786億円 |
営業利益 | 108億円 | 76億円 |
経常利益 | 87億円 | 55億円 |
税引前利益 | 99億円 | 88億円 |
当期純利益 | △72億円 | 45億円 |
まず、基本となる売上高から
まず、利益のもととなる売上高から見てみましょう。
2016年3月期 | 2017年3月期 | |
売上高 | 4441億円 | 4300億円 |
前年と比べると、やはり減っています。
売上高が落ちる原因は大きく分けて2つ。商品の販売数が減ることと、商品の価格が下がることです。ベネッセの場合は、前者の販売数が減ったことの影響が強いですね。
ベネッセの主力商品である「進研ゼミ」「こどもちゃれんじ」では、会員数の減少がなかなか止まりません。顧客情報漏えいの影響がまだ尾を引いているようですね。
また、ベルリッツの留学支援事業も、留学生の減少によって売上高が下がっています。
売上総利益~すべての利益のおおもととなる~
次に、損益計算書の中でも一番最初に出てくる利益、売上総利益を見てみましょう。売上総利益は、売上高から商品の仕入れ費用など(売上原価)を差し引いた利益です。
2016年3月期 | 2017年3月期 | ||
売上高 | 4441億円 | 4300億円 | A (収益) |
売上原価 | 2553億円 | 2513億円 | B (費用) |
売上総利益 | 1888億円 | 1786億円 | A – B(利益) |
売上高と同じく、やはり前年から減っていますね。
売上総利益は、基本的に商品の販売数が増えるほど増えていきます。また、商品の値上げをしたり、商品の仕入れや製造コストを抑えることでも、売上総利益を増やすことができます。
ベネッセの場合は、会員数が減少している、つまり商品の販売数が減っていることが、売上総利益が減った原因です。
もちろん、ベネッセもコストを減らす努力をしています。しかし、売上高が減った影響を挽回するまでには至っていないのです。
営業利益~商売の収益力を表す~
2番目に登場する利益、営業利益はどうでしょうか?営業利益は、ベネッセの商売活動の結果を表します。
営業利益は、このように売上総利益から商品の販売活動にかかる費用(販売費及び一般管理費)を差し引くことで、求められます。
2016年3月期 | 2017年3月期 | ||
売上総利益 | 1888億円 | 1786億円 | A (利益) |
販売費及び一般管理費 | 1779億円 | 1710億円 | B (費用) |
営業利益 | 108億円 | 76億円 | A – B(利益) |
前年と比べると、3割以上減ってしまっていますね。商売の稼ぐ力が落ちていることを示しています。
実は、ベネッセの営業利益は4年連続で下がり続けているのです。企業のキャッシュの源である営業利益の減少が止まらないということは、事業を今後も続けていく上で危険信号が灯っている状態。どこかで、抜本的な改革を成功させなくてはなりません。
コスト削減している中でも増えている費用とは?
ここで、販売費及び一般管理費についても、ちょっとだけのぞいてみましょう。
販売費及び一般管理費は、商品の販売を促進するための様々な費用や本社で管理業務を行う人件費が含まれています。2017年3月期の販売費及び一般管理費は、販売量の減少に合わせてやはり減っていますね。
しかし、内訳を見てみるとダイレクトメール費用は増えているんです。
ベネッセにとって、ダイレクトメールは「進研ゼミ」や「こどもちゃれんじ」の会員をゲットするための武器。利益が落ちていく中でも、必死に会員数を増やそうという努力が見て取れます。
経常利益~平常時の活動全体の収益力を表す~
今度は経常利益を見てみましょう。経常利益は、商売に関係ないものもひっくるめた、企業の平常時の活動全体から生まれた利益です。
2016年3月期 | 2017年3月期 | ||
営業利益 | 108億円 | 76億円 | A (利益) |
営業外収益 | 23億円 | 26億円 | B (収益) |
営業外費用 | 45億円 | 48億円 | C (費用) |
経常利益 | 87億円 | 55億円 | A + B – C(利益) |
営業外収益・営業外費用は、商売以外の活動から生まれる収益・費用を表します。こちらについて、目立った変動はありませんね。
ですが、前年と比べると営業利益が減っているため、それに引きずられて経常利益も減っています。ベネッセの平常時の活動全体の収益力が落ちてしまっているのです。
実は介護事業が収益の柱!
ここでは少しだけ営業外費用を掘り下げてみましょう。
営業外費用の内訳を見てみると、支払利息が増えています。支払利息というと借金の利息を表すことが多いですが、ベネッセの借金が増えているわけではありません。
実は、ベネッセは教育事業以外に介護事業も手掛けています。運営する高齢者向けホームの土地や建物等を賃借している(リース)ため、この賃借取引によって生じた債務の利息なのです。
支払利息の増加は、介護事業が拡大していることを表しています。実は、2017年3月期の営業利益の内訳を見てみると、介護事業は国内教育事業(「進研ゼミ」など)の5倍近くの利益を稼いでいるのです!
教育のイメージが強いベネッセですが、もはや介護事業がなくては成り立たないほどなのです。
税引前利益~その年特有の稼ぐ力を表す~
税金以外のすべての収益・費用を考慮した利益である税引前利益について見てみましょう。
2016年3月期 | 2017年3月期 | ||
経常利益 | 87億円 | 55億円 | A (利益) |
特別利益 | 25億円 | 41億円 | B (収益) |
特別損失 | 13億円 | 8億円 | C (費用) |
税引前利益 | 99億円 | 88億円 | A + B – C(利益) |
これまで出てきた営業利益や経常利益と比べると、税引前利益は前年からの減少幅が縮まっていますね!この理由は、2017年3月期の特別利益が大きかったことです。
特別利益や特別損失は、平常時の活動からは発生しないような臨時、巨額な収益や費用(損失)のことです。2017年3月期には、一体何が起こっていたのでしょうか?
ベネッセの苦しみを伝えるものとは?
この年に、特別利益の大半を占めていたのは「固定資産売却益」、中でも美術工芸品を売却したことで得た利益です。
美術工芸品は、社内の美的雰囲気を高めるもので事業に使うわけではありません(ベネッセは直島に美術館を持っているので、それと関係しているか分かりませんが…)。それを売却することで、落ち込んだ利益を穴埋めしたのです。
それほど、ベネッセは利益の低下に苦しんでいたんですね。実際に、この「固定資産売却益」がなければ3年連続赤字の可能性すらあったと思います。
特別利益はベネッセの真の実力ではない!
注意したいのは、特別利益はベネッセの真の実力から稼いだ利益ではないということです。
特別利益はあくまで臨時の利益、その年だけ生じたものです。来年以降もずっと発生するわけではありません。
来年以降も商売の調子が上がらず、「固定資産売却益」のような特殊な利益がなければ、また赤字に陥ってしまう可能性もあるのです。
当期純利益~1年間の全活動によって稼いだ利益を表す~
最後の利益まで来ました。あともうひと踏ん張りです!
最後に見るのは当期純利益、1年間の全活動によって最終的に企業の手元に残った利益を表します。
2016年3月期 | 2017年3月期 | ||
税引前利益 | 99億円 | 88億円 | A (利益) |
法人税等 | 171億円 | 42億円 | B (費用) |
当期純利益 | △72億円 | 45億円 | A – B(利益) |
これまで出てきた4つの利益は、どれも前年度と比べると減っていました。
ところが!当期純利益は立場が逆転、2017年3月期の方が多くなっています。
税金に起きたマジック
実は、2017年3月期に大きな利益を獲得したわけでも、何か特別なことが起こったわけでもないんですね。
「法人税等」の項目を見て頂くと、前年度の数字がかなり大きいことが分かると思います。
少し難しいお話になるのですが、決算書を作る上では「税効果会計」という特殊な会計の考え方が取り入れられます。この考え方によって出てくる目に見えない資産「繰延税金資産」が減ったことで、前年度は大きな費用が発生したんですね。この費用が「法人税等」に含まれていたのです。
「繰延税金資産」が減った原因は、売上の低迷によってこの先の業績の見通しを下方に修正したことです。
「繰延税金資産」のさらに詳しいお話を知りたい方は、こちらをご覧くださいね(↓)
つまり、前年度は特殊なできごとがあったために、「法人税等」という費用が大きく膨らんだのです。その結果、前年度の当期純利益は大きく落ち込みました。
そのため、通常通りに「法人税等」が生じた2017年3月期と前年度を比べると、あたかも業績が改善したかのように見えているのです。
しかし、実際はベネッセの会員数は減り続け、売上も右肩下がりですよね。このような特殊な要因に惑わされず、企業の業績の本質を見極めることが大切です。
5つの利益はこれで終わりです!お疲れさまでした😊
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まとめ
1.5つの利益がその企業について表現していることはそれぞれ異なる。
2.初心者の方が決算書を見る際は、まずは前年度の数字と比べながら読んでいくのがオススメ。
3.経常利益より下の項目では、その企業の実力に関わらず、その年特有の出来事によって利益のどんでん返しが起こることがある。その企業の実力を見極める上では要注意!