「その他の包括利益」とは?
資産の含み益や含み損を表す
その他の包括利益とは、包括利益計算書に登場する項目です😊
一言で表すなら、資産の含み益や含み損です。
為替レートや株価等によって変動した資産(負債)価値の増減額を表します。
たとえば、持っている有価証券の株価が上昇したことで、時価が膨らんだ分などがこれにあたります。
「含み」とあるように、実際に利益や損失として確定しているわけではないので、損益計算書の利益計算には登場しません。
先ほどの有価証券の例で言えば、いくら株価が上がっても有価証券を売らない限り利益は確定しませんよね。
このように、その他の包括利益は、後々利益または損失として当期純利益に影響を与えるであろう含み益・含み損を表すのです。
包括利益の構成要素の1つ
包括利益計算書では包括利益が計算されますが、この計算過程でその他の包括利益が登場するのです。
包括利益の計算方法
包括利益 = 当期純利益 + その他の包括利益
このように、損益計算書で計算された当期純利益に、その他の包括利益を足し合わせることで包括利益が求められるんですね。
包括利益は、企業が事業活動を通して獲得した利益と、その年に増減した資産(負債)の価値(含み益・含み損)を合わせた、大きなくくりでの利益を表しているのです。
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「その他の包括利益」の内訳を見てみよう
その他の包括利益には、こんな項目があります!
● その他有価証券評価差額金
● 繰延ヘッジ損益
● 土地再評価差額金
● 為替換算調整勘定
● 退職給付に係る調整額
● 持分法適用会社に対する持分相当額
いくつかの項目について、その意味を見ていきましょう😊
その他有価証券評価差額金
その他有価証券評価差額金は、業務上のお付き合い等で保有しているような株式の含み益や含み損を表します。
たとえば、保有しているその他有価証券の株価が上がれば、その有価証券の時価も上がり含み益が膨らみます。その膨らんだ金額を、その他有価証券評価差額金としてその他の包括利益に表すのです。
ただし、もともと売買する目的で保有している株式については、このような処理はしません。
繰延ヘッジ損益
時価や為替レートの変動によって取引価格が増減することを回避するために、デリバティブ取引(※)を行うことがあります。
(※取引価格の増減によって生ずる損益とは反対の損益が生ずる取引のこと。これにより、損益が打ち消し合う。)
繰延ヘッジ損益は、一定期間デリバティブ取引から生ずる損益を損益計算書には反映させず、その他の包括利益に含めたもののことです。
このようにその他の包括利益として処理された含み益・含み損は、損益を打ち消したい取引とタイミングを合わせて損益に振り替えられます。
たとえば海外から仕入を行う際に、為替レートによる仕入額の変動を回避するため、為替予約取引(仕入額の変動分を相殺する効果を持つ)を行うことがあります。
実際に仕入が行われるまでの間、為替レートの変動によってこの為替予約から生ずる為替差益・為替差損はその他の包括利益に含まれるのです。
(※このように一定の間、為替予約から生じた為替差益・為替差損をその他の包括利益とするのは、取引価格の増減を回避したい仕入取引や販売取引から損益が生ずるタイミング(=取引が決行される時)と為替予約取引から為替差益・為替差損が生ずるタイミングを合わせるためです。)
土地再評価差額金
土地再評価差額金は、一定の企業が土地を再評価した際に生じた含み益・含み損を表します。
ただし、この土地の再評価は1998年から一定期間のみ行われたもので、現在はこのような再評価は行われていません。企業の決算書に載っている土地再評価差額金は、その時の含み益や含み損が残っているのです。
為替換算調整勘定
為替換算調整勘定は、海外の子会社などの財務諸表を円貨に換算する際に発生する差額です。
基本的に、貸借対照表では資産・負債は換算する時の為替レートを使用しますが、資本は取得時(発生時)の為替レートのままです。使う為替レートの違いによって生ずる差額を為替換算調整勘定としているのです。
退職給付に係る調整額
将来の退職金の支払い見込み額は、退職給付に係る負債として負債の部に表されます。
この退職金の支払い見込み額を計算するために、企業は多くの項目で見積もりを行うですが、通常は多かれ少なかれこの見積もり値と実績値に差異が出てきてしまいます。
たとえば、年金資産は株式や債券などによって運用しますが、毎年の運用見込み額と実績にはある程度の差異が生じます。
ここで生じた差異の中で、まだ費用に反映されていない金額が退職給付に係る調整額としてその他の包括利益に計上されるのです。
その他の包括利益が実際に利益・損失となるのは…
このようにその他の包括利益とは、利益や損失として表に出てきていないものの、為替レートや株価、時価の動きなどによって生まれた含み益・含み損を表しています。
基本的に、取引が決済されたり、対象となる資産を売却した時に、これらの含み益や含み損は利益・損失として実現し、当期純利益の計算に関わってくるようになるのです。
ニトリの「その他の包括利益」には何がある?
ここで、ニトリのその他の包括利益(2018年2月期)を見ておさらいしてみましょう😊
ニトリの連結包括利益計算書(2018年2月期)
① | 当期純利益 | 642億円 | |
② | その他の包括利益 | その他有価証券評価差額金 | △0.8億円 |
繰延ヘッジ損益 | △110億円 | ||
為替換算調整勘定 | 8億円 | ||
退職給付に係る調整額 | 1億円 | ||
合計 | △101億円 | ||
①+② | 包括利益 | 540億円 |
その他の包括利益の中でも、特に繰延ヘッジ損益がマイナスの方に突出しているのが分かります。
「その他の包括利益」からニトリの取引の特徴が見えてくる
ニトリは海外から仕入れをしているため、為替レートが円安に進むと円換算後の仕入額が膨らんでしまいます。
そこで、為替レートによる仕入価格の変動を回避するために為替予約取引を行っているのです。
この年は、為替レート(USD)が円高方向へ進みました。海外からの仕入額には有利に働いた(円換算すると金額が小さくなる)のです。
しかし、為替レートの変動を相殺する目的で結んだ為替予約は、仕入価格とは逆方向に動きますので損失(含み損)が生じたんですね。
減益となった包括利益が意味することとは?
この他、その他有価証券評価差額金が、2018年2月期はマイナス幅に触れていますね。保有している有価証券の株価が前期よりも下がってきていることが考えられます。
2018年2月期のニトリのその他の包括利益は、繰延ヘッジ損益のマイナス幅が大きかったために、全体として大きくマイナスの値になってしまいました。
そのため、売上高10%超増加という勢いに乗って当期純利益が増益(対前期比)となっているにもかかわらず、そこにその他の包括利益を足し込んだ包括利益ベースでは減益になってしまっているのです。
ただし、2018年2月末時点で生じている為替予約の含み損は、対象としている仕入取引が決行される時(翌期以降)にその仕入取引にかかる為替変動と相殺されると思われます。
つまり、為替予約から生ずる損失は無くなる(小さくなる)であろうと考えられるのです。(その一方で、為替予約をしていなければ生ずるはずであった仕入額の減少分も小さくなります)
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まとめ
1.その他の包括利益とは、為替レートや株価等によって変動した資産(負債)の価値の増減額(含み益・含み損)を表す。後々、対象となる資産が売却されるなどして、実際の利益・損失に転換する。
2.その他の包括利益は、当期純利益と並んで包括利益を構成する要素の1つである。
3.その他の包括利益には、その他有価証券評価差額金、繰延ヘッジ損益、為替換算調整勘定、退職給付に係る調整額などがある。