実は、在庫(棚卸資産)には経営の状態を教えてくれる情報が詰まっています。
そのヒントを取り出すには、在庫の金額を簡単な計算式に当てはめるだけでいいのです。そうして導き出されるのが、在庫回転期間なんですね。
今回は、在庫回転期間を基礎からやさしくご説明し、応用編としてより効果的な使い方やABCマートの実例もご紹介します。初めて在庫回転期間に触れる方にも、その使い方をしっかり分かっていただけるようにお話ししていきますね✨
目次
在庫回転期間は何を知るためのもの?
在庫回転期間は別名、棚卸資産回転期間とも呼びます。
在庫回転期間が教えてくれることとは、ズバリ「在庫が過剰になっていないか」ということです。
在庫が過剰かどうかは、在庫の金額だけを眺めていても分からないものなんですね。
たとえば、成長段階にある企業は売上高が伸びていくと同時に、販売に備えて在庫も増やしていきます。たとえ急速に在庫が増えていても、その事実だけをもって、在庫が過剰なレベルになっていると判断することはできないのです。
在庫回転期間を使うことで、その企業の売り上げ規模(顧客からのニーズ)に照らして在庫が余りすぎていないかを知ることができるのです。
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なぜ、在庫が余っているかを知る必要があるの?
実は、貸借対照表(BS)に「棚卸資産」として表示されているものの中には、すでに資産(将来のキャッシュ増大に貢献する)としての価値が無いものが隠れていることがあるのです。
それを示す兆候が、「在庫のあまり」なんですね。
在庫の中には資金が拘束されている!
在庫は、本来いろんな用途に使えたはずのお金を、あえて商品という形に変えたものです。もっと売れ行きのよい商品の仕入れや、未来に向けた投資など、新たなキャッシュを生むためのより有効な手段に使えたかもしれないお金なのです。
商品が売れ残っている状態とは、その資金を、もしかしたらこの先も売れることのない商品に留めてしまっていることを表しているんですね。
このまま売れなければ、仕入代金として支払ったお金がムダになってしまいます。これが、商品の「資産としての価値がなくなっている」状態です。
経営状況の悪化を示すことも
また、想定通り売れていないということは、その商品を仕入れたときから経営状況が悪化している可能性も考えられます。
もちろん、お客さんに求められたらすぐ販売できるように、ある程度の在庫をもっておく必要はあります。しかし、経営側の想定通りに売れていないと、適正なレベルを超えて過剰に在庫が積み上がってしまうのです。
このような経営効率の悪化、経営環境の悪化の兆候をつかむために、在庫が過剰となっていないかを知る必要があるのです。
余った在庫がどのように利益に影響するかについては、こちらで解説しています(↓)
在庫回転期間を計算してみよう
では、さっそく在庫回転期間の計算方法を見てみましょう✨使う要素も、計算式もとてもシンプルです。
計算方法
在庫回転期間(月)=棚卸資産 ÷ 売上原価(1年分)× 12ヵ月
たとえば、棚卸資産が100万円、1年間の売上原価が200万円であれば、在庫回転期間は…
100万円 ÷ 200万円 × 12ヵ月 = 6ヵ月
です。これは、半年分の売上に必要な在庫をすでに持っていることを表します。業種によって在庫回転期間の水準は異なりますが、半年分の在庫はなかなか多いですね。
ちなみに、計算式の「12ヵ月」を「365日」に変えれば、日数単位での在庫回転期間を知ることができます。この例の在庫回転期間を日数ベースに直すと、約182日となります。
在庫回転率との関係とは?
在庫回転期間に似た名前で、在庫回転率という指標があります。こちらの方がよく聞く名前かもしれません。
在庫回転期間も、在庫回転率も教えてくれる本質的な内容は同じ、計算に使う要素も同じです。
在庫回転率の計算式もご紹介しますね。
1年分の売上原価を使うことで、1年の間に在庫が何回入れ替わったか、つまり在庫何回分の売上があったかが分かるのです。この数値が多ければ多いほどお金を効率的に使えている、言いかえると、商品に変えたお金を販売によって素早くお客さんから回収している、と言うことができます。
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在庫回転期間の効果的な使い方とは?目安はある?
在庫回転期間の目安とは?
在庫回転期間の水準は業種によって大きくことなるため、一概に在庫回転期間の目安を決めることはできません。
たとえば、足のはやい生鮮食品を扱う企業と、賞味期限のない文房具を扱う企業とでは、当然在庫回転期間は異なってくるでしょう。そのため、企業間で比べるのであれば、同じ業種同士がよいですね。
とはいっても、実際は多角化している企業が多く、同じ業種と言えども扱う商品の性質は異なることも多いものです。
【オススメ!】在庫回転期間の効果的な使い方
そこで、おすすめの在庫回転期間の使い方は、1つの企業の在庫回転期間を過去から追いかけていくことです😊
1つの企業について、在庫回転期間の変化を見るのは効果的です。在庫回転期間が長くなってきたら、以前よりも在庫が積み上がり経営状況が悪化している兆候かもしれません。
たとえば、バーバリーとのライセンス契約が終了した三陽商会の在庫回転期間を見てみると…
🔹2014年12月末の在庫回転期間(ライセンス契約が終了する前)→3.9ヵ月
🔹2015年12月末の在庫回転期間(ライセンス契約が終了した後)→4.5ヵ月
在庫回転期間が長くなっています。バーバリーの後続のブランド育成に苦労しており、売れ残り商品が積み上がってきたのです。この翌年2016年には、在庫の処分を行っていますね。
在庫回転期間が長くなっているパターンとしては、たとえば以下のような例があります。
・翌年に金額の大きい商品の納品を控えている
・新規出店するため、オープン前に在庫を確保している
・市況の悪化、ブランド力衰退等により、商品が売れ残ってしまっている
はじめの2つの理由は、翌年以降の販売量増加を見込んで在庫を増やしているので、在庫回転期間の長期化がすぐさま経営状況の悪化に結び付くものではありません。
このように、在庫回転期間の長期化は必ずしも経営状況の悪化を表すものではないので、その時々の企業の環境や変化と照らし合わせて判断する必要があります。
ABCマートの戦略を在庫回転期間を使って追ってみよう
ここで、ABCマートを例に、経営状況の変化を在庫回転期間を使って追いかけてみましょう!
採算が悪化していたABCマート
2015年度にかけて、採算が悪化していたABCマート。その原因は、積み上がった在庫を年明けセールで大幅に値引き販売していたことでした。
商品を値引きして販売すると、その分手元に戻ってくるお金も少なくなってしまいます。そのため、セール時期の利益率は特別低くなっていました。
ABCマートはこの状況を打開すべく、積み上がる在庫に対してある方法をとったのです。はたして在庫をめぐって、どのような経営が行われたのでしょうか。
在庫が増えすぎないように工夫すると…
ABCマートは、年明けセールを行う前から少しずつ値引きして商品を売ることにしました。年明けセールの段階で在庫が増えすぎないようにしたのです。
この努力によって、年明けセールでの大幅な値引きを避けることができたんですね。
ABCマートの年明けセール前の在庫回転期間を追ってみると…
🔹2015年11月末(改善前)→6.8ヵ月
🔹2016年11月末(改善後)→6.3ヵ月
と短くなっていることが分かります。顧客からの需要量に照らして、より適正な水準に在庫を抑えられるようになってきたのです。
年明けセールに繰り越される商品が減ったことで、値引き販売する商品の割合が減り、利益率が上昇しました。資金を効率的に使えるようになった、つまり、商品に投資したお金をより大きなお金に変えられるようになったのです。
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まとめ
1.在庫回転期間は、企業の売り上げ規模(顧客からの需要量)に照らして在庫が余りすぎていないかを知るために使う。
2.過剰な在庫は、経営状況の悪化を示すことがある。
3.1つの企業の在庫回転期間について、過去から追いかけて見るのがオススメ。